2010年08月18日

格差拡大という幻想という妄想

大渕憲一・佐藤弘夫・三浦秀一(2009)「現代日本人の価値観と伝統的思想:仏教、儒教、神道・国学の思想内容と調査項目の作成」『東北大学文学研究科研究年報』58 pp.180-163


マスコミや政治家は格差拡大を自明のことのように論じるが、専門家の間ではそれが事実かどうかについては意見がわかれている。橘木(1998)は、1990年代に世帯の所得差が開いたことを指摘して、格差は実際に拡大してきたと主張した。たしかに、国民の間の所得格差を示すジニ係数は、我が国の場合1990年代に上昇し、現在、国際的にも高い水準にある。しかし、これに対して大竹(2005)は、こうしたジニ係数の上昇は、高齢者世代に単身世帯が増えたことによる「見かけ上」のもので、格差拡大は「幻想」であると反論した。(p.180)


おおっ。
格差拡大は「幻想」であったのか!
私も、素人の直感として格差はあるし、これからどんどん状況がひどくなりそうだな、と素朴に感じていたけど、それはもしかして私がマスコミにおどらされた結果の「幻想」であったのか!

……そうだったらいいですね。いや。幻想だったらどんなにいいでしょうね。
なんて心惹かれる論文でしょう。

それはともかく。こう続きます。

一方、一般市民を対象にした世論調査結果を見ると、多くの市民が、現代の日本では格差が拡大していると感じている。(大竹、2005)。専門家が指摘するように、格差拡大は必ずしも実態ではないのかもしれないし、生じているとしても部分的あるいは一面的なのかもしれないが、しかし、多くの国民は格差が拡大していると感じている理由、あるいは、部分的な現象に敏感に反応すると言うことの意味を考える必要がある。我々は、それは日本人の間に強い平等志向があるためではないかと解釈している(大渕、2008)


格差は拡大しているというのは政治家やマスコミの吹聴する「幻想」かもしれないし、一部分でしかないかもしれないにもかかわらず、みんなが敏感に反応するのは、それは日本人に強い平等志向があるためである。

という仮説のもとに書かれた論文です。
日本人が、ごく一部の格差拡大に過敏反応してるだけ。なんで過敏に反応しちゃうかってのは、日本人に平等志向があるから。

乱暴にまとめるとこういうことでいいんですかね。

で。専門学校出て正社員手取り12万ではたらかされて過労働で身体こわした私の友達とかは、「部分的あるいは一面的」な格差の結果うまれた特殊なケースなんですね。しょせん、格差なんか幻想なんですね。
こういう文章をかける大学のせんせえのセンスは腹が立つな。

まあ。それはそれとして。
論文一本かくのに、それなりに手間とひまと金がかかるわけで。
それに論文の質と量がそのまま業績なわけで。一本でも多く、意味のある論文を書かないとかなりしんどい人生になりますね。研究者は。
(いや、いい論文いっぱい書いててもしんどい研究者ってのもごろごろいますけど)

で。この紹介した論文は、

【もし】格差拡大が幻想【だったら】、日本人がありもしない格差拡大に過敏反応するのはそれは日本人が平等志向を持っているからである

という仮説のもとに行われた研究なわけで。そう書いてあると思うんですが。

「専門家が指摘するように、格差拡大は必ずしも実態ではないのかもしれないし、生じているとしても部分的あるいは一面的なのかもしれないが、しかし、多くの国民は格差が拡大していると感じている理由、あるいは、部分的な現象に敏感に反応すると言うことの意味を考える必要がある。」

って、そういうことだよね。
わたしだったら、こんなリスクのたかい研究はやらない。
だって
もし格差拡大が「幻想」じゃなくて「現実」だったとしたら、この論文クズになるでしょ。ゴミ論文になるわけですよ。
幻想だとしたら、検討する価値はあるかもしれませんけどね。
現実だったら、まず最初の条件が崩れるわけですから。
過敏反応じゃなく、現実をみすえた妥当な反応でした、ってことになるでしょう。

こんな研究、危なくて手を出せません。
多くの人が直感的に「格差は拡大している」っておもってるんだから、それをくつがえすような仮説をたてるんだったら、かなり論拠を説明する必要があるとおもうんだけど。
私だったらそうします。先行研究をがっつり読んで格差が幻想か現実かをちゃんと検討します。
検討したうえで、「幻想だな」ってかなり確かに見通しがたてられなかったら、この研究にはふみきりません。手間と暇と金をドブに捨てる可能性がこわいので。
(いや、「研究の結果、わからないということがわかった」というような研究に意味がないとはおもいません。ただ、この場合はそういうレベルではなく、前提が崩れると研究の結果がただのゴミになる)

で、論文にするときも、ちょろっと書名を紹介するだけではなく、「格差拡大は幻想である」と思った理由を1章くらいつかって書きます。だって、そうしないと、人にまともに読んでもらえないんじゃないかっておもうので。

だって大竹(2005)を紹介されても。


大竹(2005)は、こうしたジニ係数の上昇は、高齢者世代に単身世帯が増えたことによる「見かけ上」のもので、格差拡大は「幻想」であると反論した。


こんな乱暴な書き方されたら、
「大竹(2005)って、トンデモ本かなー」
って思うだけですよ。というか、私はトンデモ本かな、と思いました。実際どうなんだかしりませんが。
あ、大竹(2005)は

大竹文雄『日本の不平等』日本経済新聞社2005年

だそうです。
これを読まないとなんともいえませんが。私はよみません。
読まないまま、考えますが。

本当に幻想であってくれたら、どんなによいことでしょうね。

posted by なかのまき at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記