2010年02月03日

それは、わたしの問題ではなくあなたの課題だ。(2)

なんか、シリーズ化しようとおもいます。
左手書字と筆順と日本語教育
あと3回くらいかな?

というわけで。
日本語教育ではどんなふうに筆順をおしえてるのでしょーか。

川口義一・横溝紳一郎(2005)『成長する教師のための日本語ガイドブック』第3章 日本語の授業の実際(4技能の指導:理論と実践) pp.190-181

を引用します。



P:まずは「筆順を教えるべきかどうか」やろ?
J:そのとおり! 最近はパソコンの普及で、実際に「字を書く」機会が減ってきているでしょ。そんで、学習者の更なる負担となっている筆順まで教える必要はなく、とにかく「文字を読んで意味が分かる」ことを優先した方がいいのではないか、という考えがあるんだ。
P:ふん、そら分かるわな。
J:でもその一方で、筆順を教えることは大切だという主張もちゃんとある。例えば、石田(1987:16-31)は、こんな風に主張しているんだ。

・ひらがな・カタカナを速く奇麗に書くためには、筆順の知識は必要不可欠。
・初級でちゃんとやっておかないと、(書き取りをしたり、講義のノートをとったりするために速く書く力が要求される)中級レベルで、漢字の筆順を覚え直すのは遅すぎる。

・以下の理由で、少なくとも初級の前半を終えるころまでには、漢字の正しい筆順をきちんと指導しておかねばならない。
  ・字形の間違いを防ぐ。
  ・(知っていると)速く書ける
  ・将来辞書を引く際に必要とされる、画数の数え方が分かる。
  ・崩して書かれた字の判読にも役立つ。 (180P) 


「筆順、いる。ゼッタイ」派の文献(石田1987)は紹介されてるけど、
「筆順、いらないんじゃね?」派の文献ってないのかなあ?
あと、「パソコンあるから、筆順、いらないんじゃね?」派だけなのかなあ。「手で書くとき、筆順って意味あるの?」派はいないのかなあ。
またここで

パソコン 対 手書き

っていう二元論におちいってるけど。
もっともっと、筆順指導の問題っていろいろあるとおもうし。
ここに左手利きを入れるともっとごちゃっとするのになあ。

ってことで。
つづけて、。日本語教育における左手書字者のあつかいがのってます。

J:主張が分かれているのは、筆順だけじゃない。「左利きの学習者」にどのように対処するのかについても、主張が分かれているんだ。日本語の表記システム自体が右利きを想定して作られているので、「右利きに直した方がいい」という主張が出てくるんだけど、それにはこんな理由もいわれてる。


・慣れてしまえば楽なので、はじめから右利きで書く練習をすればよい。
・両手を上手に使うことができれば、両方の脳の活性利用にもつながるので、右利きで書けるようにする方がいい。


P:簡単に言うけどな、慣れるまでが大変なんやで、利き手を変えるゆうんは。
J:そうだね。この意見とは反対に、「左利きの学習者はそのままにすべきだ」という主張があって、「右利き/左利きは、学習者個人のアイデンティティにも関わってくる問題なので、あえて指導はしない方がいい」という考え方なんだ。
P:どっちも一理あるなぁ。こら、どっちを正しいゆうのを判断するのは難しいなぁ。
J:ボクもそう思うんだけど、このことについて石田(1987:31)は「左利きはそのままにする」という立場で、こんな提案をしているよ。

・左手で書く場合には、筆順に従うとかきづらくなる場合がでてくるので、原則を一応示し、形に響くような逸脱した書き方は避けるように指導すればいい。


えー、とても正気とは思えませんが、書いてあるものはしかたありません。
もう一度引用します。

・慣れてしまえば楽なので、はじめから右利きで書く練習をすればよい。
・両手を上手に使うことができれば、両方の脳の活性利用にもつながるので、右利きで書けるようにする方がいい。
、「右利き/左利きは、学習者個人のアイデンティティにも関わってくる問題なので、あえて指導はしない方がいい」



「慣れてしまえば楽だから」右利きで書け。
「両方の脳の活性利用にもつながるので」、右利きで書け。
「アイデンティティにも関わってくる問題なので」指導はしない。

えー。すごいなあ。
前回の私のブログの記事から。
3点セット。

・左手ききにたいする、右手書字の強制
・左手書字をする学習者への指導(責任)放棄
・おのれの正当化

はい。きれいに出てますね。
とくに、
・おのれの正当化
この部分がひどいですね〜。
「慣れてくれば楽?」「脳の活性?」「アイデンティティ?」
もーう、「左利きのあなたたちのためなのよ〜」っていう押しつけが。
いったい、左手書字する人に「右利きで書くように指導」することや、「あえて指導しない」という態度は、だれにとって都合がいいものでしょうか。

左手書字者は、あたりまえに左手で字を書きたいでしょ。
左手で字をかくとき、日本語の文字はどんな風にかけばいいのか、教師に指導してもらいたいでしょ。
そんな、左手書字者のつごうなんか、ここにはいっこもはいってない。
あと、「アイデンティティ」って、すごく気持ち悪い。
右手で字を書く人は、
「右手で字をかくことが私のアイデンティティ!」とか思ってるのか?
「あたりまえ」って思ってるだけじゃない?むしろ、考えたこともないでしょう。
「どうして私は右手で字を書いているの? そうか、右手で字を書くことは、私のアイデンティティだ!」
とか、考えるの?いやー。かんがえてないでしょう。
それとおなじくらい、左手で字を書いてる人が左手で字を書くことなんか、「あたりまえ」でしょう。アイデンティティもくそもないでしょう。

「アイデンティティ」っていう言葉のうさんくささは、
脱アイデンティティ脱アイデンティティ
上野 千鶴子

勁草書房 2005-12
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こちらから。
『脱アイデンティティ』(上野千鶴子編 勁草書房 2005)


で、「脳の活性化云々」は気持ちが悪い、ですむとして、次の石田(1987)がまた問題ですね。


・左手で書く場合には、筆順に従うとかきづらくなる場合がでてくるので、原則を一応示し、形に響くような逸脱した書き方は避けるように指導すればいい。



これさあ、筆順で引用されてた石田(1987)と同じ文献ですね。
もういちど引用します。

・ひらがな・カタカナを速く奇麗に書くためには、筆順の知識は必要不可欠。(略)
漢字の正しい筆順をきちんと指導しておかねばならない。



で、


・左手で書く場合には、筆順に従うとかきづらくなる場合がでてくるので、原則を一応示し、形に響くような逸脱した書き方は避けるように指導すればいい。



これ、同じ文献だよね。すごいや。
ちょっと下に、実際のページの写真をのせておきます。




hi.jpg

ミドリの線でかこったところが
「筆順の知識は必要不可欠。漢字の正しい筆順をきちんとしどうしておかねばならない。」って書いてあるところ。

アカの線でかこったところが、
「左手で書く場合には、筆順に従うとかきづらくなる場合がでてくるので、原則を一応示し、形に響くような逸脱した書き方は避けるように指導すればいい」
とかかいてあるところ。

見開き1ページでここまであざやかに矛盾してる出版物って、めずらしくないですか?

日本語教師の先生としては、これは大丈夫なの?
「ええええ? へんだよ、これなに書いてるんだよ」
とか思わないの?

え? 私がまちがってる?
このページに変なところは何もないの?
これで納得できちゃうの?

……えー。
…………えー。
なんで?

えーと、
これは、いま、孫引きをしてるので。
ちょっと、引用先の石田(1987)の実物に目を通す必要がありますねえ。

というわけで次の記事は石田(1987)を引用します。
今日はここまで。

posted by なかのまき at 22:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 書道教育
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