2010年03月13日

『ニセ心理学にだまされるな!』にだまされるな! というきもち。

筆跡学について。

もう、この先は怖いものみたさでやってるかんじで。
筆跡学について

『ニセ心理学にだまされるな!』(古澤照幸・同友館・2007)
という本があります。

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心理テストやら占いやら血液型性格診断やら筆跡鑑定やらのうさんくささについて述べた本です。
筆者はプロフィールによると、
1958年うまれで、都立大の大学院をでて、現在は埼玉学園大学の准教授ということだそうです。社会心理学者だそうです。

で、この本、帯に
「ananの読者よ目覚めよ!」
とかかいてあるけど、それがちょっと下品だとおもう。

どっちかというと、anan読んでおどらされてる小娘より。
就職活動で、「人柄を判断するから履歴書はてがきで」とかいったり就活の面接で「血液型は?」とかきいたりするふつーの社会人のほうが大問題でしょ。
まっさきに目覚めなくちゃいけないのはそっち側です。

「面接で血液型きかれるの?」
ってびっくりしますよね。私もついこのあいだまで「そんなんあるわけないよね」って思ってました。

こちらのブログをみるまでは。
面接で血液型を訊かれた人募集

あああ。
やっぱり、ananの読者よりこっちを。こっちを帯にかいてください。
「血液型を気にする面接官よ目覚めよ!」

はい。それで。
この本、なかみもちょっと「あれ?」っておもうところがあるのですが。
とくに筆跡学のところ。

まず、本書から引用します。



3−2 性格の心理学
(2)性格の構造

類型論
 類型論とは、人をいくつかのタイプに分類し、それぞれのタイプの性格特徴を記述し、人を理解しようとする研究領域と考えることができます。この点でニセ科学である血液型性格診断も類型論ということになります。

体液説:もっとも古い類型論としては古代ギリシャのヒポクラテスが作り、その後、ガレノスが医学的に発展させた「四体液説」があります。
四体液説:血液、黄胆汁、黒胆汁、粘液のうち何が優勢かによって、多血質、胆汁質、憂鬱質、粘液質という4つのタイプに人を分類するものです。(略)
クレッチマーの類型論:体液ではないが、同じ身体を用い、その体格から人を分類したのがクレッチマーの類型論です。クレッチマーは、精神科医として、患者と接している間に体格と性格との間に関係があることを見出しました。すなわち、肥満型には躁鬱病が、細身型には精神分裂病(統合失調症)が、闘士型(筋肉質型)にはテンカンがそれぞれ多いことを発見したのです。精神病ではない正常な人には体格と性格との間に関連があるとし、肥満型は躁鬱質、細身型は分裂質、闘士型は粘着質としました。(略)
外向型・内向型:精神分析家のユングは外向型、内向型という2つの類型を提出しました。(略)
(p.155-157)


えーと。
これ、心理学は心理学でも、「学史」ですよね。
まさかいまも心理学者は人を体液で分類したりしてませんよね?
というか「血液、黄胆汁、黒胆汁、粘液のうち何が優勢かによって」って、なに。優勢って、どういう状態を優勢っていうんですかね。血液と胆汁と粘液を比べる意味がまったくわかんないですね。

クレッチマー類型論もすごく飛んでますね。
えーと、そもそも文章がよくわかんないんですが?
「クレッチマーは、精神科医として、患者と接している間に体格と性格との間に関係があることを見出しました。」

うん。

「肥満型には躁鬱病が、細身型には精神分裂病(統合失調症)が、闘士型(筋肉質型)にはテンカンがそれぞれ多いことを発見したのです。」

えーと。
躁鬱病も精神分裂病もテンカンも性格ではないでしょ。
「体格と性格との間に関係があることを見出しました」って。
心理学の人にはわかるのかもしれませんが、素人からみるとここの文章の意味がさっぱり。
まあいいや。そこは重要なポイントではないので。

で、

「精神病ではない正常な人には体格と性格との間に関連があるとし、肥満型は躁鬱質、細身型は分裂質、闘士型は粘着質としました。」

ふーん。
……え、学史ですよね?

「むかーしむかし、あるところにクレッチマーさんという学者さんがおったそうな。ある日クレッチマーさんは体格から人格を分類できるとおもいついたということじゃ。めでたしめでたし」

って。そういう、昔話のことですよね。
いま、心理学の人は「肥満型・細身型・闘士型」なんてやってない……です……よ、ね?


とおもったら。大学の筆跡学の研究で「クレッチマー類型論」がつかわれてたー。
『ニセ心理学にだまされるな!』で堂々と紹介されてます


3-4 筆跡学と筆跡診断ーーその科学性
ここでは、科学としての筆跡学について話を進めながら、民間で作られた筆跡診断を筆跡学からとらえ、実際に筆跡診断に利用できるものかどうか、つまり筆跡診断の有用生について検討してみましょう。(p.188)


あれっ?
そもそも筆跡学が疑似科学でしょ?
「科学としての筆跡学」? 
なにそれ。


(3)筆跡学と民間の筆跡診断の比較
四角とていねいさ
 筆跡のイメージと性格との対応づけについての一連の実験心理学的研究があります。
(略)

被験者たちをクレッチマーの3類型に分類する

被験者たちの筆跡を他の被験者に評価してもらう

気質ごとに各因子の得点を算出する

 

え?
クレッチマーつかっちゃうの? ここで?
いやー。すごいな。
あ、これは
槇田仁(1982)『SCT筆跡による性格の診断―表出行動についての基礎的研究』金子書房
という文献をふまえての文章です。

槇田氏が、1982にクレッチマー類型論をつかって筆跡心理学の研究をおこなったということですね。そうですか。
いや。うん。
……え?
心理学としてはこれでいいのですか?
これは、ちゃんと心理学の学問として価値のある研究と、古澤氏はみなしているということですね。
ふーん。

フランスやドイツで長い歴史をもつにもかかわらず学問的に立証できなくて、疑似科学とされていた筆跡学が、日本で実を結んだのですね! すっごーい。これは世界的大発見ですね!
そのわりには2007年にでた本の参考文献に1982年のものしか出せてないなんて。これは世界規模での損失ですよ!
日本の心理学者さん、筆跡学は日本が世界のトップレベルにあるんですから。ちゃんと研究しなきゃ!
ざんねんですね。ええ。ほんとうに。

古澤氏は
大学の研究室で行われている「科学としての筆跡学」と民間で作られた「筆跡診断」を比較する、というやりかたをとっています。
で、

ここでは、一応の基準を研究側に求め、どの程度一致するかが筆跡診断の成績としておきます。(p.213)


としてます。
大学の研究室で行われた筆跡学が基準で、そっから俗流筆跡診断を評価するんですね。
疑似科学で疑似科学を評価する意味は?

お天気予報と下駄占いがどれだけ一致するかで、下駄占いの評価をする、っていうようなかんじなんでしょうけど。

「お天気予報とこれだけ一致してないのだから下駄占いは信じちゃダメ」
みたいな。でも、
どっちかというと

こっくりさんに明日のお天気をきいた結果と下駄占いがどれだけ一致するかで、下駄占いの評価をしているだけでしょう。

「こっくりさんとこれだけ一致してないのだから、下駄占いは信用できない」
とか。
いや、だってそもそもこっくりさんが信用出来ないんだから、こっくりさんと一致しなかった結果が、下駄占いが信用できないことにはならんでしょう。


なにかっていうと。
民間でお金をとってやってる筆跡診断は「ニセ心理学である」
これはいいでしょう。
じゃあ、大学の研究室で行われていた筆跡学は、なに?
あれは疑似科学じゃないの?

古澤氏は、筆跡学についてこう評しています。

手書き文字および書字行為の研究者によると、(脚注:上越教育大学押木秀樹教授の私信)人間の直感による判断がまったく無意味かというとそうでもないだろうということです。筆者自身も完全に筆跡診断を否定するつもりはありません。(p.57)


押木秀樹氏は、このブログでもなんかいかとりあげた、書道教育の人ですね。
えーと。っていうか、字と性格についてみたいな論文も紹介したことありますね。
もういちどひっぱってきます。

塩田由香・田中由希子・押木秀樹(1998)「書写指導の目標論的観点から見た筆跡と性格の関係について」『書写書道教育研究』12 pp.40-47

現時点において、字形特徴と本人の性格についてその関係を明確に立証できていない。ということは、性格とは関係ないにも関わらず、字が与える印象によって、第三者は本人の性格を間違ってもしくはゆがめて理解してしまう危険性を持つことになる。本人の情報を多面的にとらえることの出来る場面は、大きな問題にはならないであろう。しかし、各種試験等の履歴書など提出書類の場合などは、少なからぬ影響を与えることも考えられる。(47p)


押木氏も名をつらねるこの論文で、「現時点において、字形特徴と本人の性格についてその関係を明確に立証できていない。」「性格とは関係ないにも関わらず、字が与える印象によって、第三者は本人の性格を間違ってもしくはゆがめて理解してしまう危険性を持つことになる」と、ものすごくまっとうな指摘がされています。

ふつうさあ。
私信よりは公開された論文を優先的に紹介するのが研究者の仁義じゃないですかね。
「手書き文字および書字行為の研究者によると、(脚注:上越教育大学押木秀樹教授の私信)人間の直感による判断がまったく無意味かというとそうでもないだろうということです」
このくだり、いらないよね。

どうしても押木氏の名前出したいなら、

手書き文字および書字行為の研究者によると、現時点において、字形特徴と本人の性格についてその関係を明確に立証できていないそうです。筆者自身は完全に筆跡診断を否定するつもりはありません。

(脚注:塩田由香・田中由希子・押木秀樹(1998)「書写指導の目標論的観点から見た筆跡と性格の関係について」『書写書道教育研究』12 pp.40-47)
とするべきじゃないでしょうか。
なにいってるんだかわからない文章になるけど。

それでね、「ニセ心理学にだまされるな!」でも参考文献として紹介してある
黒田正典(1980)『書の心理―筆跡心理学の発達と課題』誠心書房

ですが。私もいま、手元にもってます。
これ、あれなんです、改訂版なんですが、初版は1960年です。
しかも

品切れ中の旧版の誤植・誤記を訂正し、いくらか補筆をして再版することをおもいたった。(序)


ってかいてあるから、まあ。だいたいは1960年の研究と考えた方がよいのでしょう。ふるいなあ。

それでね、黒田(1980)を引用しましょう。



筆跡学と筆跡心理学

その三、伝統的筆跡学では、筆跡研究者と筆跡観察者とは同一人である。これに対して、筆跡の心理学的研究では、この二つの役割は別な人がやることが多い。これも研究の客観性を保とうとするためである。
 筆跡研究が、これらの条件をより多く満たすほど、それだけいわゆる「科学的」な研究となるであろう。本書が副題に筆跡心理学という語を入れたのも、そのような研究をめざすためなのである。ただし、注意すべきは、方法が客観的になりさえすれば、優れた筆跡研究をすることができるとはかぎらないことである。かえって認識内容が貧弱になることがある。伝統的な面相学的筆跡学の要素も、科学的な筆跡心理学にとっても必要なのである。(p.3)


筆跡学は、「客観的」だけだと貧弱になるんだって。
「伝統的筆跡学」によって入り込んでくるのは、うらないの要素でしょうね。それは科学的な筆跡心理学とはあいいれないものです。


『ニセ心理学にだまされるな!』にもどります。
古澤氏は、


実験心理学の系統では、実験を研究の主体としますが、その他の研究領域でも実験を使用するのは先に述べたとおりです。ただし、心理学では、対照や内容により実験をおこなえないこともあります。こういった部分を補う意味で調査や観察、テストを行うのです。したがって、実験心理学だけでなく、心理学分野の多くは、自然科学を標榜しているのです。分野によっては自然科学とは言えないまでも、心理学は科学として成り立っている学問です。(p.152)


と述べています。「心理学は科学として成り立っている学問です」なのであれば、参考文献に黒田氏の本を「心理学」の文献として紹介するのは慎重になったほうがいいでしょう。
「方法が客観的になりさえすれば、優れた筆跡研究をすることができるとはかぎらないことである。かえって認識内容が貧弱になることがある」とか書いてある文献なんですから。


えーと。
私のいいたいことをまとめます。


なんの知識もないでよむと、

古澤氏の『ニセ心理学にだまされるな!』の筆跡学の箇所は。
へんです。

まるでこの社会に「大学の研究室で行われている正統的心理学としてのな筆跡学」と「民間で金儲けのために行われているニセ科学・ニセ心理学としての筆跡診断」があって、
「筆跡診断はけしからんけれど筆跡学は信じていいかもしれない」

みたいにね。読めてしまうでしょう。
私はたまたま、押木氏や黒田氏の文献に目を通していたので、「なにこれ」って思っただけです。
私だって予備知識がなければそう理解してしまいます。

でも、それはちがうでしょう。

民間で金儲けのために行われてる筆跡診断も、大学の研究室で行われた筆跡学も、疑似科学ってことではおなじです。
同じじゃないように書いてあるようによめるので、きもちわるい。

いや、黒田氏のやってた、1960年ころだったらまだ、「未科学」(これから実証出来るかもしれない分野)として、研究された、ってのでもいいかもしれませんけど。
ね。

う〜ん。
一般書なんだから。
心理学の素養のないひとが読むんだから。
なるべくわかりやすく書こう!
っていう姿勢があって。
こんなことになっちゃったのかな。

posted by なかのまき at 12:35| Comment(0) | TrackBack(0) | ニセ科学;筆跡学
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